2008年05月21日

「こうのとりのゆりかご」設置から1年

 熊本の慈恵病院に設置された「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)が5月10日で1年経過し、 熊本市が運用結果を発表しています。17人が預けられ、9人は親の身元が判明、 うち親に再び引取られた子供は1人だったそうです。

 年齢構成では新生児と乳児で16人とほとんどを占め、 再び引取られなかった16人は熊本県内の施設に入ったのではないか、と見られています。

 

 子供を簡単に産んで、簡単にどこかに置去りにしたり、捨てたりする事件が頻繁に起きているこのごろ、1年間で、 もしかすると亡くなっていたかも知れない17人の子供の命が救われた、と考えると「こうのとりのゆりかご」 を設置した意味はあったと言えます。

 17人が多いか少ないか、という点については、何とも判断がつきかねますが、生命を守る最後の砦としては、 世間で起きている事件の数から考えると少ないようにも思えます。安易な子供の捨場にしない、 という意味からは多いのかも知れません。

 

 ただ、産まれて来た子供は親がきちんと育てる、というのが当り前で、「こうのとりのゆりかご」 など不要で誰も預けない、というのが理想だと思いますが、なかなかそう行っていないのが難しいところ。

 簡単に結論を出せるものではありませんが、今の時点では、世間の状況から見て「こうのとりのゆりかご」 の必要性は認めますが、一方で、なるべく利用されることなく、親は責任を持って子供を育てて欲しい、という心情ですね。

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毎日.jp
赤ちゃんポスト:設置1年 熊本・慈恵病院、 17人預かる 13人は手紙など一緒に

 ◇熊本市公表

 熊本市は20日、同市の慈恵病院が昨年5月10日に設置した、 親が育てられない赤ちゃんを匿名で預かる「赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)」の運用結果を初公表した。 3月末までの約11カ月間に預けられた子は17人(男13、女4)。 このうち13人は親が手紙など着衣以外のものを一緒に残しており「親のつらい思いがくみ取れた」(幸山政史市長) という。一方、9人は親の身元が判明したが、再び引き取られた子は1人だった。【結城かほる】

 17人中、14人が新生児(生後1カ月未満)で、乳児(1年未満)が2人、幼児が1人いた。 虐待の疑いがある子はいなかったが、精密検査など医療行為が必要な子が2人いた。

 身元が判明した9人の親の居住地は、熊本県以外の九州が3人、中国、中部、関東地方が各2人だった。 身元が分からなかった8人は熊本市が「棄児」として戸籍を作成した。  親が引き取った1人以外の子供のその後の行き先は、個人が特定されるとして非公表としたが、 大半が県内外の乳児院などの施設に入所したとみられる。

 市は当初、預け入れ件数のみ公表するとしていたが 「社会的検証ができるよう可能な限りの公表が望ましい」との意見を受け、16項目を公表した。

 幸山市長は「母親の手紙にはつらい思いが読み取れるものもあった。救えた命がある点で、(ポストの) 設置許可の判断は間違いなかった」と述べた。
 ◇人数非常に多い−−元大阪市中央児童相談所長の津崎哲郎・花園大教授 

 預け入れ17人というのは、都道府県の児童相談所の感覚からすると非常に多い。 国民への浸透度が高いと言えるのでは。個条書きのデータだけでは、今後につながる意義を世間が判断し、 検証するのは難しい。預けた人たちの状況や心境を個人情報に抵触しない形でまとめた方が良かった。
 ◇施設増やすべき−−海外事例を研究しているノートルダム清心女子大の阪本恭子講師 新生児かどうか、身長・体重、 健康状態だけ発表する(先進地の)ドイツより詳しい情報が公開された。 児童相談所や市との連携もうまくいっているようだ。公立も含め(赤ちゃんを受け入れる)施設を増やした方がいい。 匿名で出産し、後から子供の預け入れを相談する制度も視野に入れていいのではないか。
 ◇乳児院は一時満員、里親の登録急増−−幸せ願い、対応模索

 赤ちゃんポストに預けられた赤ちゃんの多くは現在、県内外の乳児院で育てられているとみられる。 成長すると里親に引き取られるか、児童養護施設などに入所する。熊本県内のある乳児院を訪ねた。

 「『ベビー』では、面会に来た他の親に気付かれませんか」。昨年、ある赤ちゃんが寝るベッドの名札に、 院の職員が疑問の声を上げたことがあった。

 赤ちゃんには名前がなかった。ポストに預けられ、親の身元が分からない子は、 熊本市長が名前を付けて戸籍を作るが、作成に約1週間かかり、入所が先になってしまったのだ。結局、 乳児院が仮の名前をつけ、数日間を過ごした。

 院長は「戸惑いはある。(ポストに預けられた子は)成育環境や親の健康状況などの情報がなく、 気を使う1年だった」と話す。

 県内3カ所の乳児院の定員は計60人。ポスト設置前、8割ほどだった入所率は昨年、9割を超え、 一時満員にもなった。それだけ命を救えたと言えるが、院長は「どうすれば、この子たちが幸せになれるのか、 それはわからない」と話す。

  ◇   ◇

 「養子を望む里親は熊本県内にもいる」

 18日、熊本市で開かれた里親の研修会で、県へ要望が相次いだ。 県内の里親登録者数は85人前後で推移していたが、07年度は97人に増えた。新規登録者も17人と例年の倍近い。 県里親協議会の米田早利事務局長は「ゆりかご効果では」とみる。

 乳児院の入所期限は原則2歳。児童相談所は、養子縁組を含む里親委託を検討するが、 赤ちゃんポストの子が里親に引き取られるケースが出るかは「一概に言えない」(熊本中央児童相談所)。

 養子として引き取られても、米田事務局長は「その後」を心配する。法的には、 養子縁組が成立すれば児童相談所の役割は終わる。「実子でも育児には悩む。養子ならなおさらで、 相談もしにくいのが現実」。米田事務局長は「協議会として、里親が相談できるよう関係をつないでいきたい」と話す。

毎日新聞 2008年5月21日 西部朝刊

 

赤ちゃんポスト:初年度17件 熊本市「命救う目的果たした」、設置意義強調 / 熊本

 熊本市の慈恵病院が設置した「赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)」に、初年度の07年度 (07年5月10日〜08年3月31日)、17人の子供が預けられたことが20日、公表された。 全国から預け入れがあり、手がかりを残した親も多かった。病院や、ポスト設置を許可した市など関係者は 「緊急避難の目的は果たされた。設置の意義はあった」と口をそろえて評価した。

【結城かほる、笠井光俊、門田陽介】

 会見した幸山政史市長は、全国の自治体で妊娠相談体制を強化するよう国に求めたことを明らかにした。 ポスト設置について「全国各地から利用があった。救える命があるという当初の目的は果たされていると思う」と述べた。

 17人のうち、身元の分からなかった8人の子は県内で育つ。「市としても責任は重い。 健やかに成長できるよう関係機関で連携したい」と話した。

 慈恵病院の蓮田太二理事長も会見し、ポストの運営や24時間体制で相談を受けていることに「人的、 経済的に(負担が)大きいが、それでも意義はある」と述べた。17人という預け入れ人数についても「(関東など) 遠くからも預けに来た。日本に1カ所しかないことを考えれば多いとは思わない」と答えた。

 身元がわからないままの子供たちの今後については「子供は同じところで育てるのがいい。 里親や養子縁組など家庭で育てるよう取り組んでほしい」と要望した。

 赤ちゃんポストの運用を検証している市要保護児童対策地域協議会「こうのとりのゆりかご」 専門部会の部会長を務めた恒成茂行・熊本大大学院名誉教授は、報道陣の質問に「(ポストは) 社会的なセーフティーネットの機能は立派に果たしていると思う」と答えた。

 母親が残した手紙には、子供の誕生日や名前を記したものも複数あり「遺棄を助長するとか、 安易に捨てたとは考えていない」と強調。情報公開については「現状が十分とは思わないが、公表するには母数が少ない。 長期的に考えていく」と述べた。
 ◇知事「事前の相談体制充実こそ」

 蒲島郁夫知事は20日「現時点で個々の数字についてコメントするのは控えたい」としながらも「現に、 ゆりかごが利用され、県、市、慈恵病院への相談件数が急増していることから、 事前の相談体制の充実が大事だと感じている」との談話を発表した。
 ◇幸山市長

 主なやり取りは次の通り。

 −−17件という数字を多いと思うか。

 ◆評価は難しく、ありのまま受け止める。

 −−親の居住地判明分の中に県内からのものはなかった。

 ◆悩んでいる人が全国でいかに多いかということだと思う。

 −−親が子どもを引き取ったケースが1件しかなかったが。

 ◆あくまで緊急避難的な施設であり、親の引き取りが理想。もっと増えることを期待しており、 家族はいつでも連絡してほしい。

 −−匿名だから命を救えたと考えるか。

 ◆その可能性はあるが、一方で子供の出自をはっきりさせてあげることも考えなければいけない。 検討していくが、まず子どもの命を救うことが大前提。

 −−親が残した手紙から何を感じたか。

 ◆短い文章も長い文章もあった。つらい思いをしていることを読み取れるものもあった。

 −−公表項目は今回の16項目で十分か。

 ◆社会的検証をしてもらうために出来る限り公表しようと考えた。一方で、 子供の人権やプライバシーを守る必要もあった。公表項目が妥当かどうか今後も検討していく。

 −−利用状況の公表は今後も1年ごとか。

 ◆基本的に1年だ。
 ◇蓮田理事長

 主なやり取りは次の通り。

 −−当初は年に1人あるかないかくらいと予想していたが、17人が預けられた。

 ◆全国に深刻な悩みを抱えた人がいるということ。ただ予想は超えたが、決して多いとは思わない。 年に1人程度というのはドイツ(のポスト)を想定していた。だが、私たちが視察した当時でドイツには70カ所あった。 日本はここ1カ所だ。

 −−預けた親はどんな悩みを抱えている人たちなのか。

 ◆推定だが、悩みと苦しみ、罪悪感や悲しみ。そういうものがいっぱいあると思う。 親の手紙の内容は話せないが、わずかに書いてある内容からも母親の思いは感じ取れる。

 −−反省点や課題はないか。

 ◆ないわけではないが、お話しできない。院内でよく検討したい。

 −−預けられた赤ちゃんを育てるうえで行政に求めることは。

 ◆乳児院や施設が深い愛情で子供を育てていることは分かっています。ただ、子供は家庭が最適。 (里親の)家庭で育てられることができるよう取り組んでいただけたら。

 −−赤ちゃんポストの運用を続けるか。

 ◆そう思っている。社会全体で考えてもらいたい(問題だ)。

赤ちゃんポスト

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 ■ことば
 ◇赤ちゃんポスト

 親が育てられない赤ちゃんを匿名で受け入れる。ドイツなど欧州で導入されている。慈恵病院は、 窓の一角に設けた扉(縦45センチ、横64センチ)を開け、保温設備付きのベッドに新生児を預けてもらう。 赤ちゃんが置かれるとブザーが鳴り、職員は24時間待機して速やかに保護する。 預ける前に相談するよう呼び掛ける手紙も置いてある。安全が確保されていることなどから、 利用しても刑法の保護責任者遺棄罪には当たらないとされている。

毎日新聞 2008年5月21日 地方版

 

 

posted by いさた at 22:04 | Comment(0) | TrackBack(1) | 時事(子供) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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