今年の初っぱなに大きく報じられた、妹殺害・遺体切断という猟奇的事件の初公判が今日ありました。 被告は起訴事実を認めたが、責任能力の点を争う姿勢を見せているとのこと。
家族関係の中のゆがみと、被告と被害者それぞれの資質によって引き起された事件のように思えます。 家族全員が成人になっていたという事もあるとは思いますが、お互いの関係・関わり方が希薄に思える点(理性的・ 冷静な関係とも言えるでしょうか)。また、家族の証言によれば、被告がもつ潔癖性と、被害者が自己中心的であったところ。
家族は、被告に対してさほど怒っているようでもなく、被害者にも落度があった、という思いの方が強いようです。
自分の家族間で殺人事件、しかも猟奇的事件が起きたという状態は想像するしかありませんが、例えば、
親ならばどんな思いでいるのでしょうね。私なら、そんな子供を育てた自身の罪悪感に身を焦しているかも知れません。
裁判と言うことで、この被告の両親は必要な内容を適切に証言したのでしょうが、非常にクールな印象を受け、
ちょっと不思議な感じがしました。
被告がやったことは明らかに異常ですし、普通の精神状態では無かったのでしょうが、 この事件の後に起きた猟奇的殺人事件のニュースを見聞きしてた今となっては、この事件の被告はまだまともな方に思えますね。
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毎日インタラクティブ
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初公判
◇検察側「数年前から憎悪」
東京都渋谷区の歯科医師の自宅で昨年12月、長女の短大生、武藤亜澄さん(当時20歳) が殺害され遺体が切断された事件で、殺人、死体損壊罪に問われた兄の元予備校生、勇貴被告(22)は31日、東京地裁 (秋葉康弘裁判長)の初公判で起訴事実を認めた。弁護側は事実関係を認める一方で、責任能力を争う姿勢を示した。 【銭場裕司】
勇貴被告は白いワイシャツ姿で、ややこわばった表情で入廷。秋葉裁判長から 「起訴状に違っているところはありますか」と問われると、かぼそい声ながら、はっきりとした口調で「ないと思います」 と答えた。
また、証人出廷した父親は「亜澄を守ってやれず、本当にすまない」と述べ、勇貴被告については 「おとなしくて優しく、自分から口や手を出したことはない。反省しており、寛大な処分をお願いしたい」と訴えた。
勇貴被告の裁判は、公判前整理手続きで、争点は動機と責任能力に絞り込まれている。 「心神喪失か心神耗弱状態だった」と主張する弁護側は精神鑑定を求めており、今後、裁判所が採否を判断する。
起訴状によると、勇貴被告は06年12月30日、自宅で亜澄さんの首にタオルを巻いて締め付け、 水を張った浴槽内に押さえ付けて沈めて殺害。さらに遺体を包丁とのこぎりで切断した。
事件を巡っては、報道の過熱を受け東京地検が「性的な興味や遺体への関心に基づく事件ではない」 と異例のコメントを出した。また警視庁が殺害や切断に使った木刀やのこぎりなど証拠品4点を紛失している。
◇弁護側反論「気に食わない程度」
検察側は冒頭陳述で、勇貴被告が亜澄さん殺害を決意した経緯を詳述した。冒頭陳述によると、 勇貴被告は数年前から、尊敬する両親に反抗的になった亜澄さんに憎悪感を抱いていた。 4度目の歯学部受験を間近に控えた昨年12月30日、自宅で2人だけになった時に亜澄さんから 「自分が勉強しないから成績が悪いと言っているけど、本当は分からないね」と言われた勇貴被告は、 「お前はいくら勉強したって無駄だよ」という意味と受け取って怒り、木刀で亜澄さんの頭を殴りつけた。
何度か殴ったあと負い目を感じて木刀を手放した。しかし、亜澄さんの 「私には女優になってスターになる夢がある。勇君とは違う。勇君が歯医者になるのは、パパとママのまねじゃないか」 という言葉に再び怒りが爆発した。
歯科医を目指したのは砂漠に草を植えて環境保護に役立つという夢を実現する資金稼ぎのためだった。 ところが、亜澄さんに「親の物まね」と見下されたと感じ、「もう聞きたくない。この口を黙らせるには、 もう殺すしかない」と決意した。一方、弁護側は「被害者を憎悪していたわけではなく『気に食わない』 という程度に過ぎない」などと反論した。【銭場裕司、高倉友彰】
毎日新聞 2007年7月31日 東京夕刊
Sankei Web
渋谷の妹殺人「180秒首、締めた」 父親は妹の生活態度語る
東京・渋谷の裕福な歯科医師宅で、妹を殺害した上に遺体を切断するという事件を起こし、 社会に衝撃を与えた武藤勇貴被告(22)は、東京地裁で31日に開かれた初公判で起訴事実を認めた。 歯科医師を目指して3浪中だった勇貴被告と、女優になる夢を抱いていた妹の亜澄さん。一つ屋根の下に暮らしながら、 心が通じ合わなかった家族。弁護側証人として出廷した父親らの言葉を、 勇貴被告は表情をほとんど変えることなく聞き入っていた。
勇貴被告は白のワイシャツに紺色のズボン姿で入廷。頭髪は丸刈りが伸びたようだった。 首元までボタンを締め、長袖もまくらず伸ばしたまま。秋葉康弘裁判長に証言台の前に促されると、 「よろしくお願いします」と一礼した。
「武藤勇貴と申します」。名前を尋ねられ、はっきりした口調で述べた。現住所は「東京拘置所にいます」 。犯行があった渋谷区内の住所は、口にしたくないような様子だった。
「ドラマで180秒首を絞めれば人は死ぬという場面を見たような記憶があったことから、 1から180まで数えながら(亜澄さんの)首を締め続けた」
検察官の朗読する冒頭陳述が、亜澄さん殺害の場面に至ると、被告人席に座った勇貴被告は、 ときおり肩で大きく息をしながら、目をつむり続けていた。
証拠調べに入り、検察側、弁護側双方が調書内容などを読み上げる際も、背筋を伸ばしたまま、 目をつむり聞いていた勇貴被告。検察側が、犯行に使用したタオルなど証拠物を示すと、証言台の前で小さくうなずき、 自分のものであることを認めた。
弁護側が「亜澄さんの遺体についた髪の毛が気持ち悪く、何度もシャワーで洗いながらゴミ箱に捨てた」 とする勇貴被告の供述調書を読み上げても、表情を変えず、目を閉じたままだった。
その後、弁護側の証人として父親が入廷。勇貴被告は目を閉じたまま、顔を合わせようとしない。父親は、 勇貴被告を「皿から落ちた菓子も食べない潔癖性だった」と話し、亜澄さんのことは「非常に気が強く、人の話を聞けず、 感謝の念に欠けていた」と話した。勇貴被告は父親の証言を、時折口をかみしめるようにしながら、 目を閉じて聞いていた。
「亜澄が家出から戻ってきても、謝ったこともない。強い態度を取って『また出ていく』 といわれたこともあります」
父親の口からは、亜澄さんの生活態度の問題点が次々に語られた。
また、亜澄さんが友人に「他の兄弟と差別されている」などと話していたことについても、父親は 「自分の思い込み」と否定した上で、「人に哀れんでもらって、 自分に対する気を引いて優しくしてもらいたかったんだと思います」と証言した。
証言によると、勇貴被告は亜澄さんが女優を目指していたことを知らなかったという。
父親は証人席で「亜澄が『私には女優になってスターになる夢がある』と言ったとき、勇貴は『また、 うそこいてる』と思ったのではないか。もし、勇貴が知っていれば、違う結果だったのではないか」 とか細い声でつぶやいた。
「今、勇貴被告に言いたいことは」と弁護人から問われ、 「勇貴には家庭内の事情を伝えておけばよかった」と背中を丸め、家庭内のコミュニケーション不足を反省する父親の姿を、 勇貴被告は少し身を乗り出すようにじっと見つめていた。しかし父親が証言を終え、退廷する際は、 一度も父親をみることはなかった。
午後から再開された法廷には、まず母親が証人として出廷。深々とお辞儀をして証言台に向かう途中、 被告人席の勇貴被告をチラっと見たが、勇貴被告は目を合わせなかった。
母親は、亜澄さんは幼稚園のころからいじめを受けていたことや、 中2のころから何度がリストカットをしていたことを証言。いじめの原因については 「亜澄が強く出ないでいれば丸く収まる」と、亜澄さんの性格にも問題があったとした。
また、勇貴被告は亜澄さんのために、入学できる短大を見つけてやったが、「亜澄は勇貴には 『ずっと浪人だね』と言っていました」と述べ、感謝の気持ちを示すことはなかったという。
関係者によると、勇貴被告が拘置されている東京拘置所には、両親や兄が接見に訪れ、 差し入れなどをしている。今年1月に逮捕されてから拘置が続いているが、体調も崩していないという。
勇貴被告は、接見した弁護人の前で「マスコミの取材で仕事ができなくなってしまうのではないか」 などと、両親を気遣っていたという。
亜澄さんに対しては「傲慢(ごうまん)だ。ヒステリックだ。恩知らずでわがまま」 などと厳しい言葉を浴びせたこともあった一方、「亜澄の頭の上にタオルを乗せて血を止めている夢を見た」などと話し、 涙ぐんだこともあったという。
弁護人によると、初公判で証人出廷する両親と兄は、勇貴被告に厳しい処罰感情を抱いていないという。