橋下大阪府知事が、府の本庁舎の咲洲への全面移転を断念するとのことです。先日の東日本大震災で、咲洲庁舎の耐震性能、特に長周期地震動への性能不足が露呈し、防災拠点としては無理があるとの判断のようです。
東日本大震災時には、咲洲庁舎は10分間揺れて最上階付近の最大振幅は2.7mあり、360箇所が損傷したそうです。この時の震度は3。これがもっと震源が近い南海地震になると、はるかに地震力は大きいでしょうから(専門家の中には最大振幅が12m以上になるといった意見も・・・)、これではかなりの耐震補強を施す必要があり、そのあたりで移転断念、という判断になったようです。
咲洲のある南港周辺では、建物だけでなく地盤あるいは道路・橋が地震でやられる可能性がありますし、海のそばで津波も心配です。建物を補強しても、周辺インフラの破壊で府庁が孤立する可能性もありますから、防災拠点としては立地自体に問題があるように思います。
知事が自説に固執せず、早い段階で断念に至った判断は良かったのではないかと思います。その反面、大阪府庁の防災拠点としての機能については問題が露呈しただけで、解決の方向が見えていません。
咲洲は断念、現在の本庁舎は建物が古いため耐震補強が大変、ではどうするか、という点ではまだ名案が無いように思われます。
現本庁舎の近くで新しい庁舎を建設する、という方法が結局、もっとも良い解決案だと感じますが、巨大な赤字を抱えて、咲洲庁舎に金をつぎ込んでいる今の財政状況では、その実現は難しそうです。
咲洲庁舎は「安物買いの銭失い」、そんな言葉をあてたくなりますね。明らかに「失敗」となれば、この秋の府知事・市長選に影響が出るでしょう。
YOMIURI ONLINE
橋下知事、本庁舎全面移転を断念…地震に弱い
大阪府の橋下徹知事は18日、府咲洲(さきしま)庁舎(大阪市住之江区、旧WTC)に本庁舎を全面移転する構想について、断念すると表明した。
咲洲庁舎の安全性を検証する専門家から、高層ビルが影響を受けやすい長周期地震動に対する脆弱(ぜいじゃく)性を指摘され、「防災拠点としては難しく、全面移転はあり得ない」と述べた。第2庁舎としての役割は当面維持するが、活用が困難な場合は、昨年6月に約85億円で購入した同庁舎から職員を引き揚げる可能性にも言及した。
東日本大震災で周辺は震度3だったが、55階建て(256メートル)の同庁舎は約10分間揺れ、約360か所損傷。最上階付近の振幅は約2・7メートルに達した。
橋下知事はこの日、防災や建築の専門家と意見交換。専門家は「震源が近い南海地震では、振幅は5倍の12メートル以上に及ぶ可能性がある」などと述べた。
これを受け、橋下知事は耐震補強を追加し、現状のまま第2庁舎として活用する道を探る一方、「庁舎として使えないなら、全面撤退も考える」と表明。終了後、報道陣には「本庁舎としては難しい。自分の思いで変な方向に突っ走らず、助かった」と語った。
橋下知事は2008年8月、現庁舎(大阪市中央区)の老朽化に伴い、旧WTCへの全面移転を表明。府議会は2度、移転条例案を否決したが、ビルの購入は認めた。大阪都構想を掲げる橋下知事はその後も、「将来の都庁にしたい」と全面移転に意欲を見せていた。
(2011年8月18日21時49分 読売新聞)
大阪府の橋下徹知事が18日、宿願としてきた府庁舎の全面移転を突如、断念した。
自ら提唱する大阪都構想で都庁予定地と位置づけ、大阪市の3セクから購入した際には「府市協調のシンボル」とされた咲洲庁舎(旧WTC)。今後は膨らむ耐震補強費などで「無駄の象徴」にもなりかねず、11月27日に想定される府知事、大阪市長のダブル選にも影響を与えそうだ。
3セクの経営破綻で、大阪市の「負の遺産」だった旧WTC。府が85億円で買い取った当時は、橋下知事と平松邦夫市長が二人三脚で進める大阪再生のシンボルとも言われた。ベイエリアへの企業誘致にも起爆剤になると期待されただけに、市幹部からは「残念の一言」との声が漏れた。
一方、橋下知事は、1193億円かけて建設されたWTCを「85億円で買える」安さを強調してきたが、耐震対策に130億〜18億円の追加工事を迫られている。老朽化した現庁舎と並行して補強費や維持費を投入することになれば、「格安が大誤算になる」(府幹部)との懸念も出ている。
(2011年8月19日13時11分 読売新聞)
移転してからガラガラガッシャン、というよりは、今回の判断の方が良いような気がします。ただ、理想をいえば、こうなる前に、もっと慎重に移転先を決めるなりすれば良かったのに、とも思います。そう上手くはいかないのかもしれませんが。
今の時点で断念する方が、傷は浅くて済むでしょう。
>こうなる前に、もっと慎重に移転先を決めるなりすれば良かったのに
耐震性・防災の話は、それほど深く考えてはいなかったでしょうし、想定する災害規模も、今より低いものだったと思います。
本庁舎補修よりもコストが安い、という建前でしたが、うまくはいかないですね。