利根川水系で洪水対策の根拠として使われている「基本高水量」の算出根拠となった資料が、現在は国土交通省内に無い、ということがわかったそうです。
洪水対策の一環としてのダム建設の根拠になっている数字でもあり、また利根川水系には一躍有名なったあの「八ッ場ダム」があることもあり、ダム建設の妥当性が大きくゆらぐ、ともアサヒには書かれています。
基本高水量は利根川水系に限らず治水対策では重要な数字なので、この件が他の水系にも及び、ダム建設の根拠がもう根本的にゆらぐかもしれない、といったことも書かれていますがいきなり想像を広げすぎな感じがします。
元記事の表現だと、いかにも根拠が無い数字のような印象ですが、1980年頃に出てきた結果のようなので、当時、検討がなされていたのなら、30年も経っていて単に元の資料が無くなってしまい、結果の数字のみが残っている状態になっているだけでは?
政治的判断で数字が水増しされたとか、エラい人の鶴の一声だったとか、そういう事情があったのなら確かに根拠はありませんが・・・
また、「仮定や想像上の数字」とか、国が基本高水量をねつ造したかのような印象を与えますが、モデルになった洪水があったとしても、200年に1度といったごく希にしかおきない状況を考えるのに、仮定が入り込むは当たり前のこと。
検討当時は現在のようなシミュレーション技術が発達していたわけではありませんし、
予測の技術・理論にしても現在と比べれば精度が劣っていても仕方が無いと思います。
まあ、ある程度信頼の置ける観測値、実績値が200年近く蓄積されていれば話は別ですが・・・・その仮定が妥当なものなのか?という議論はあっても、元記事はバッサリと切り捨てすぎでしょう。
ただ、現在の知見から、もう一度基本高水量を見直すことは、より精度が高い予測結果が得られる期待がある、という点で意味はあると思います。
その際には、あわせて200年に一度、や100年に一度といった防災目標についても再び議論をする必要があるでしょう。こちらが変われば予測の精度云々以上に基本高水量が変わることになると思います。
先日の奄美大島の観測史上最多と言われている記録的豪雨で被害に遭われた、遭われている方々にはお見舞い申し上げます。
このような豪雨は何年に一度のことなのでしょう。少なくとも100年に一度ぐらいの頻度ではあると思います。では、200年に一度というのは?仮定や想像抜きで、予測が可能な範囲なのでしょうか?
防災目標について議論するというのは、このような状況への対策はどうする、防げないならどの程度まで防げるようにするか?を議論することです。
asahi.com
八ツ場ダム 洪水時の最大流量示す資料は存在せず
2010年10月22日22時43分
利根川水系で200年に1度の大洪水が起きた時の最大流量(基本高水)を算出した根拠を示す資料が国土交通省内に存在しないことを、馬淵澄夫国交相が22日、明らかにした。基本高水は、国が八ツ場(やんば)ダム(群馬県)の建設が必要だと主張する最も重要な根拠。馬淵国交相は調査を命じたが、これまでのダム政策の妥当性が大きく揺らぐ可能性がある。
馬淵国交相は、「どのようにして(基本高水の)計算が行われたかという資料が、現時点では確認できない」と語った。水の浸透度や流れる速度といった最終結論の前提となる数値は断片的に残っていたが、最終的に毎秒2万2千トンという数値に至った計算過程を体系的に記録した資料が存在しなかったという。
また、国の審議会は2005〜06年、利根川水系の基本高水が妥当か否か議論した上で、数値をそのまま踏襲しているが、審議会が踏襲を妥当と判断した根拠を示す資料も存在しなかった。馬淵国交相は「(妥当とした)肝心な記載はわずか3行。これはおかしいということで徹底調査を命じた」と語った。
9月に就任した馬淵国交相は、基本高水がどのように決められたのか、同省河川局に説明を要求していた。
洪水の被害を防ぐため、利根川水系では、国内最高レベルとなる200年に1度の洪水を想定。基本高水は1980年に中流にある八斗島(やったじま)地点(群馬県伊勢崎市)で2万2千トンと設定された。
200年に1度の洪水は、47年のカスリーン台風をモデルにしたが、八斗島付近での川の流量の実測値はなく、国は仮定や想像上の数字をあてはめて洪水状況を再現し、2万2千トンと算出した。うち八ツ場ダムを含め上流のダムで5500トンを抑え、残る1万6500トンは堤防の強化などで対応することになっている。しかし、すでに完成した六つのダムの効果は計1千トンにすぎない。八ツ場ダムが完成しても効果は600トンにとどまり、さらに数基から十数基のダム建設が必要とされる。
八ツ場ダムを巡っては今月1日、ダム建設が必要か否かの検証を、国と6都県などが始めている。馬淵国交相は今後、この検証作業の中で、利根川水系の基本高水の算出方法の見直しを指示している。
民主党政権は、八ツ場ダム以外にも83カ所のダム事業の見直しを進めている。今後、利根川水系の基本高水の算出方法の見直しが引き金となって、各地の河川の基本高水も見直され、ダム建設の根拠が根本的に揺らぐ可能性もある。(歌野清一郎)
「リスク」を論じる場合には、必ず「予測・予断」が混入するので、一定の結論を出すのが難しいという話があるようですが、この場合もその典型のようですね。
正確に予測するのはまず無理な話です。
つまるところ、基本高水量を下方修正してもかまいませんが、では水害にあう確率がアップすることをどれぐらいまで許容できるのか、ということに行き着くと思います。
例えば、現時点で一切の治水対策を止めれば、50年に1回程度の確率で川が氾濫するけれども、それで良いですか、といったことです。