インドやパキスタンで発生したと見られる、多剤耐性菌の感染症が欧米で急増しているとのこと。この菌は腸内細菌で、 抗生物質がほとんど効かず「スーパー細菌」とも呼ばれているそうです。
抗生物質の乱用による耐性菌の出現は、数年前からニュースで見聞きしていたので、新しい問題では無いように思いますが、 今回は多くの細菌に対して効果がある「カルバペネム」という系統の抗生物質に耐性を持っている点と、 耐性遺伝子が他の菌へ広がりやすいという点が問題になっているようです。
今回見つかった遺伝子で、より毒性の強い菌が耐性を獲得した場合、新たな抗生物質の開発といった新技術を除けば、 現時点の技術で効果的な治療が出来なくなる可能性があり、それが世界的流行ともなれば大事に発展するかもしれません。
欧米で急増している理由として、より安価な医療を求めて新興国に旅行をする「メディカル・ツーリズム」 が背景にあるようです。
ただ、それに限らず新興国とのモノや人の行き来はこれから増加していくことは間違いないですから、 多剤耐性菌が世界に広がるリスクは確実にありますね。
対策の必要性が訴えられつつあるそうですが、 有効な対策(といっても抗生物質の使用規制を徹底するぐらいでしょうか)がとれるのか、疑問が残ります。
YOMIURI ONLINE
抗生剤きかぬ「スーパー細菌」欧米猛威…印から?
【ロンドン=大内佐紀】インドとパキスタンが発生源とみられ、 抗生物質がほとんど効かない新たな腸内細菌に感染した患者が、両国のほか、欧米諸国でも急増し、17日までに、 ベルギーで1人の死亡が確認された。
英医学誌ランセットは世界的な感染拡大につながる恐れがあるとして、対策を呼びかけている。
AFP通信によると、死亡したベルギー人はパキスタンを旅行中、自動車事故に遭い、 同国の病院からブリュッセルの病院に移送されたが、すでに新型耐性菌に感染していたという。
新型耐性菌は「NDM1」という新しく確認された遺伝子を持ち、抗生物質への耐性が著しく高く、「スーパー細菌」 の俗称がついている。感染すると、菌や菌の毒素が全身に広がって臓器に重い炎症を起こし、 致死率の高い敗血症などになる恐れもある。ランセット誌は、英国で37人の感染者が確認されたとし、AP通信によれば、 オランダ、スウェーデン、米国、オーストラリアなどでも感染が確認されている。
同誌は、感染経路について特に、「インドには、欧州や米国から美容整形を受けに行く人が多い」と言及している。
(2010年8月17日12時28分 読売新聞)
asahi.com
耐性菌、医療ツーリズムで拡大? インドから欧州へ
2010年8月17日11時2分
【ワシントン=勝田敏彦】ほとんどの抗生物質が効かない多剤耐性細菌がインド、 パキスタンから欧州に広がっていることがわかった。安価な医療などを求めて世界を旅する「メディカルツーリズム」 が拡大を助けたとみられる。英国、インド、パキスタンなどの国際チームが論文を発表したが、インドからは反発も出ている。
英医学誌ランセットの伝染病専門姉妹誌に先週掲載された論文によると、チームはインド、パキスタン、 英国の患者から分離された大腸菌などを分析。幅広い抗菌効果を示す抗生物質カルバペネムに対する耐性遺伝子「NDM1」 を持つ細菌の試料をインド、パキスタンから計143例、英国で37例見つけた。
カルバペネムは重症の感染症の治療の「最後のとりで」ともされる重要な薬。耐性菌の発生を防ぐため、 乱用は強く戒められているが、論文によると、インドでは処方箋(せん)なしで大量に使われ、 耐性遺伝子発生の温床になっているという。
英国の患者の多くは、美容外科手術などを受けるために、医療費が安いインドやパキスタンに旅行していた。チームは、 患者は現地で感染して帰国したとみている。
今回見つかった細菌は病原性がそれほど高くないと見られるが、チームは、 耐性遺伝子がほかの細菌へと飛び移って耐性が広がりやすい性質に注目。 ほとんど抗生物質が効かない病原性の高い菌が生まれるおそれがあり、「世界的な医療問題になる可能性がある」 と監視の必要性を訴えている。
こうした指摘に対し、インドは反発している。
耐性遺伝子の名前が首都ニューデリーにちなむこともあり、現地メディアによると、野党・インド人民党の幹部は 「論文はインドがメディカルツーリズムの人気目的地となってきたタイミングで出ており、疑わしい」と述べた。 AFP通信によると、パキスタンを旅行していたベルギー人男性が6月、この耐性遺伝子を持つ細菌に感染して死亡した。