岐阜の建設会社が、岐阜県発注の建設工事を受注する際、自社にとって十分と判断した以上の利益は、 発注元に返還するという提案をしたそうです。
現在、公共事業の競争入札では、品質確保ということで最低制限価格というものを設け、 これを下回る額を入札すると失格になったり、あるいは本当に応札額で業務が遂行できるのか調査されたり、 あるいはチェックが非常に厳しくなったりします。
この建設会社は、正直に入札すると失格になるため、最低制限価格で応札し、余分な利益は返還します、 と提案しているようです。
私なら、利益がでるなら出来るだけ積んでおこう、ということを考えますが、この会社は違いますね。 自治体の財政を心配するのなら、別に返還という形をとらなくても、自主的にどんどん寄付すれば済むことですから、 この提案は明らかに今の制度の変革を求めているということです。
まあ、元記事内での「入札では最低制限価格の少し上を狙うことが目的化」という現状は事実ですし、 自由な競争とは言い難いです。
ただし、発注側としては制限を設けないとダンピング競争になり、 過度のコストダウンで造られる構造物の品質に不安がある、というのもまた実情だろうと思います。安いところに出しました、 というのは簡単でわかりやすいですが、事前に「品質」を評価することがなかなか難しいのですね。
今回の提案は、入札制度に一石を投じるという点ではなかなかに興味深いです。発注側としては、自分達の積算価格が高い、 ひいては税金の無駄遣いと言われているようで、もしかするとあまり気分は良くないのかもしれません・・・・
もし、このような返還提案を「落札のためのテクニック」として使う業者が次々に現れれば、 また事情が変わってくるでしょう。応札額は形骸化して、代わりにリベートで競うような状況になってしまう可能性があります。
発注側としては、返還には応じられない(寄付は歓迎でしょうが)のではないですかね。
asahi.com
公共事業入札「必要以上の利益返します」岐阜の建設会社
2010年2月11日15時3分
当社の利益は400万円で十分。それを超える分、880万円は岐阜県にお返しします――。脱・談合で知られる建設会社 「希望社」(岐阜市)が、1月にあった同県発注の耐震工事の指名競争入札で、異例の「提案」をして落札していたことがわかった。 公共工事の入札は、品質確保のため最低制限価格を設けており、下回ると失格する。同社は、 最低制限価格をクリアして落札するためやむなく高い入札価格を提示したといい、 今回の提案は最低制限価格のあり方に一石を投じることになる。
同社が落札したのは、岐阜県立衛生専門学校(岐阜市)の南棟西側の4階建て校舎の耐震補強工事。 県が公表した工事の予定価格は、5931万5千円(税抜き)だった。
入札では指名業者20社のうち8社が入札を辞退。1月27日に12社が参加して実施された。 県が設けた最低制限価格を下回った7社が無効となり、残る5社の中で最も低い5100万円を提示した同社が落札した。
同社は、県の最低制限価格をクリアして落札するため、やむなく高い入札価格を提示したと主張しており、 入札に先立って県に出した工事内訳書の表紙に、「失格とならないために5100万円の入札金額を提示するが、 当社は利益を確保した上で、4220万円で品質に問題のない工事を施工できる。差額の880万円は県財政のために返還したい」 と提案を書き込んだ。
受け取った岐阜県は、前代未聞の提案の取り扱いについて困惑。工事を担当する公共建築住宅課や法務・ 情報公開課などが検討したが、同社からの工事内訳書の積算に問題はなく、入札価格の整合性も取れているため、落札を決定した。 提案については、「返還してもらう理由は見あたらない」(県都市建築部)と説明している。
最低制限価格は、材料費や労賃などの積算単価から計算した予定価格に、一定の比率をかけて算出する。 自治体によって違うが、70〜90%が主流で、工事の品質低下につながらない程度という配慮で設定される。ただ、 民間の工事に比べて割高という批判も多い。
同社の桑原耕司会長は「当社は適正な利益が約400万円だと判断しており、 それ以上は受け取るべきものではないと考えている。現状の入札制度では、 最低制限価格よりも少し上を狙って入札するのが目的となり、本来の競争が阻害されている。制度を見直すべきだ」と話している。
入札制度に詳しい鈴木満・桐蔭横浜大学法科大学院教授(経済法)は 「予定価格を基準にした県の最低制限価格の設定の仕方がおかしい。税金が無駄遣いされる典型的なケース。 入札価格の平均を最低制限価格の基準にして、市場価格と連動するような『変動型最低制限価格制』を導入するべきではないか」 と話している。(松田昌也)
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〈希望社〉 大手ゼネコン清水建設に勤務していた桑原耕司会長が、1988年に創業した建設会社。施主に代わって、 競争原理で工事会社を選定する建設マネジメント(CM)方式のコンサルタント業務を中心に、09年3月期の売上高は30億円。 従業員数は103人。桑原会長は03年、当時の田中康夫・長野県知事に要請され、同県の公共工事入札等検討委員会に参加。 同県は、入札価格だけでなく、業者の地域貢献や過去の工事成績も加味して判断する「総合評価落札方式」を導入した。
単年度予算の使い切りにこだわる自治体側の硬直化した予算自体が問題だということでしょうかね。コストを気にしすぎると、かえって品質が落ちるとか言い出す人がいそうですが、どうせ、予算が多くても一緒でしょうし、問題はむしろ、そういう手抜き工事をする連中を適切に排除出来ない今の社会自体にあるような気がします。
最低制限価格は、過去にダンピング競争に陥って、品質やら業務の遂行自体に問題をきたす事態が起きたために導入された、という経緯もあります。
ダンピングで疲弊した建設業者自身も泣きが入った、ということもありますねぇ・・・
>手抜き工事をする連中を適切に排除出来ない今の社会自体にあるような気がします。
誰が責任をもって評価して排除するか(発注者なんでしょうけど)、というところから前に進みませんね・・・