6月1日より消防法が改正され、高層ビルや超高層ビルで被害が懸念されている「長周期地震動」 による被害への対策として、事務機器の転倒防止や、 エレベーターに閉じこめられた人を救出する計画の策定等が義務づけられるそうです。
長周期地震動というのは、震源が遠くにあり、ゆっくりした周期で長い時間揺れる地震によるもので、 高層ビルや超高層ビルで揺れが大きくなるものです。建築物自体の設計でもこれまではあまり考慮されてきておらず、 近年問題になっていますが、今回の消防法の改正は、建築物自体ではなく、 建物内の家具や什器の転倒被害を減らそうとするもののようです。
エレベーターからの救出云々は、2004年の新潟・中越地震で、東京の六本木ヒルズのエレベータワイヤが切れた、 という実際の被害に基づいているようですね。
大きな揺れで家具や事務機器がフロア内を動き回ったら、収納しているモノは無事でも、 人が怪我をしたり場合によっては亡くなることもあるでしょうから、転倒防止・固定化は必要な対策と言えるでしょうね。 あまりに揺れが大きいと、ビルから事務機器が飛出す、なんてこともあるかもしれません・・・・
この義務化は、計画の作成や管理点検の報告が義務づけられるそうですが、 果してどこまで実効性があるのかは気になる点です。
現在も行われている立入り検査でも、スプリンクラーの有無のような、ハード的装備はなかなかごまかしようもありませんが、 例えば非常避難経路は、検査時はOKでも、日常は物置になっていて塞がっている、 といった有名無実のようなケースは多々あります。
今回も同じ状態に陥るのではないか、という危惧はありますね。
また、高層ビルでも、
いわゆるタワーマンションなどの高層マンションは対象外とのこと。住宅部分まで義務づけるのは困難という判断のようです。 (義務づけたところで当局が管理把握するのも難しいでしょうね)
個人の家は個々に対策してくれ、ということですね。
家具の転倒防止にはそれなりにコストがかかりますが、阪神・淡路大震災の経験者としては、 せめて大きなタンスや食器棚など、倒れてのしかかってきたら大事になりそうな家具には対策を施しておいた方が良いと思います。
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長周期地震動で超高層ビルに重大損傷の可能性
asahi.com
高層ビル、長周期揺れ対策義務化の法改正 被害相次ぐ
2009年5月11日9時15分
高層ビルの大地震対策が本格的に動き出す。6月1日に施行される改正消防法で、 事務機器の転倒防止やエレベーターに閉じ込められた人の救出計画策定などが義務づけられる。「長周期地震動」 の被害をいかに防ぐかがポイントだ。マンションは今回は対象外だが、家具の固定など「屋内の震災対策」 の重要性も指摘されている。
法改正の背景には、高層ビルの増加とともに「長周期地震動」の影響の深刻さが明らかになってきたことがある。
木造住宅などに被害を与えるガタガタとした1秒程度の周期の揺れと違い、 長周期地震動は数秒以上の長いゆっくりした揺れが数分間も続く。巨大地震で発生しやすく、関東や名古屋、大阪など堆積 (たいせき)層がある平野部で揺れが大きくなる。04年10月の新潟県中越地震では、震源から約200キロ離れた東京・ 六本木ヒルズのエレベーターのワイヤが切れた。前年の03年、北海道・十勝沖地震では、石油タンクが揺れて火災を起こした。
防災科学技術研究所が南海地震を想定して実験したところ、固定化などの対策をとらないと、 オフィスではキャスターつきの重いコピー機が、リビングでは重いテレビが、室内を動き回った。数分間に及ぶ揺れで 「人命の危険が示される重大な被害」が起きると結論づけられた。
05年3月の福岡県西方沖地震後の東京消防庁の調査でも、 高層階ほど家具の転倒などによる被害が大きいことが確かめられた。
国土交通省によると、21階以上の超高層ビルは01年度以降、毎年80〜100棟のペースで着工されている。
今回、高層マンションは「住宅部分まで適用するのは厳し過ぎる」として対策義務づけの対象外となった。 内閣府の調査では、地震に備えて家具などの固定をしているのは4世帯に1世帯。内閣府の池内幸司参事官は 「家具固定化による減災の効果は大きい。寝室など危険が高い所から固定を進めてほしい」と普及を図る考えだ。
今回の法改正で対象となるのは(1)11階以上で延べ面積1万平方メートル以上の高層建築物(2) 5〜10階で2万平方メートル以上の建物(3)4階以下で5万平方メートル以上の建物(4) 延べ面積千平方メートル以上の地下街。消防法は高層建築物を「高さ31メートルを超える建築物」としており、 おおよそ11階以上。総務省消防庁によると、08年3月末現在で全国に約4万3千棟ある。
こうした建物に入居する事務所やホテル、大学、病院などの事業所責任者は、 地震を想定した防災管理者の選任や消防計画の作成、防災管理点検の報告が義務づけられる。
これらの義務を怠り、さらに消防署の命令に違反すれば、懲役1年以下の罰則もある。(大久保泰)