姉歯元建築士による構造計算書の偽造が発覚し、大騒ぎになったのは2005年の11月。もう3年以上の前のことですね。思えばその後の食品偽装やら産地偽装やら、一連の偽装のはじまりのような事件であったように思います。
そんな、いくつもある偽造計算書の一つに基づいて建てられ、結果的に建て替えを余儀なくされた愛知県のあるホテルが、建築確認をした愛知県とコンサルタント会社を相手に損害賠償を求めた裁判があります。
その裁判の判決が愛知地裁であり、建築確認側の責任・過失が認められたそうです。
建築確認側の責任がはっきりと認められたのは、これが初めてではないか、ということです。そういう意味では画期的判決のようですが、一般的感覚からすれば、責任の一端はあって当然だと感じられます。
確認側としては、姉歯事件当時までは、構造計算は確認の範囲外であった(建築士が責任を持って良心的にしているはず)、3週間という短い時間で膨大な構造計算をチェックすることなど出来ない、ということで、偽装を見抜けなくても仕方がないし責任もないんだ、というスタンスでいるはずです。
現実として、恐らく構造計算をチェックできる担当者は稀であったでしょうから、チェックしろと言われてもチェックできなかったのが実態でしょうね。
そこに、安全性を保つための注意義務を怠った、過失がある、と言われたら、これは困っているのではないでしょうかね。これが判例として、全国至る所で建築確認側の責任が認められることになったらどうなることか、と注目が集まっているかも知れません。
地裁判決でもあるし、これは愛知県は控訴するでしょう。何としても責任回避・・・・
YOMIURI ONLINE
耐震偽装で建て替え、建築確認の愛知県に賠償命令…地裁判決
元1級建築士・姉歯秀次受刑者(51)による耐震強度偽装事件で、強度不足で建て替えられた愛知県半田市のビジネスホテル「センターワンホテル半田」(中川三郎社長)が、建築確認をした愛知県と、コンサルタント会社「総合経営研究所(総研)」(東京都)などを相手取り、ホテルの建設費や休業補償費など計約5億1600万円の支払いを求めた訴訟の判決が24日、名古屋地裁であった。戸田久裁判長は「審査を担当した県建築主事は安全性を保つための注意義務を怠った」などとホテル側の主張を全面的に認め、県と総研側に計約5700万円の支払いを命じた。
県側は建築確認審査について「審査対象は建築基準法など法令が決めた項目だけ」と主張したが、判決では、今回の設計が、すき間のある耐震壁を1枚の壁としたり、1階部分に耐震壁がなかったりした点などを挙げ、「建築の専門家としての常識的判断に反し、耐震強度が確保されない危険な設計。(法令の明記がなくても)審査対象になる」と指摘。「建築主事は設計者に問い合わせるなど調査をする必要があったが、これを怠った」と結論づけた。
ホテル開業を指導した総研にも「安全性を確保するため、業者を適切に選定し、指導監督する注意義務があった」とした。
ホテル側は建設費用や休業補償などの賠償を求めたが、判決は、耐震補強工事にかかる費用に限定して認め、賠償額を算定した。
(2009年2月24日22時09分 読売新聞)
asahi.com
耐震偽装訴訟 愛知県の責任認め5700万円賠償命令
2009年2月24日20時23分
姉歯秀次・元1級建築士による耐震強度偽装事件で、強度不足が判明して建て替えられた愛知県半田市の「センターワンホテル半田」の経営会社「半田電化工業」(中川三郎社長)が、建築確認をした県とコンサルタント会社などに総額約5億1600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が24日、名古屋地裁であった。戸田久裁判長は、審査に過失があったとして県などの責任を認め、約5700万円の支払いを命じた。
一連の事件で、強度不足を見逃したとして行政の責任が認められたのは初めて。判決で戸田裁判長は建築確認審査は「危険な建築物を出現させないための最後の砦(とりで)」で、建築主事には建築主の信頼に応える専門家としての注意義務があると指摘。「設計上の問題について調査すべき注意義務を怠った」と述べた。
一方で、当時は最長21日以内に審査するよう求められており、時間的制約に加え技術的基準は多岐にわたり、すべての項目を審査するのは困難だった、とも述べた。
判決はまず、建設省(当時)監修の「建築構造審査要領」などを基準に審査する義務があったと指摘。その上で、基準に沿い、耐震壁の強度や設計型式について、具体的に検討した。
10階建てホテルの2〜10階の耐震壁については、強度を満たすとした姉歯・元1級建築士の設計について、「建築の専門家としての常識的判断に反し明らかに不適切」と指摘。「構造図を見れば明らかで、建築主事は通常の審査で容易に発見できたのに放置または看過した」と述べた。
耐震壁がなく柱だけで支える1階の「ピロティ」の構造についても、阪神大震災で倒壊の危険性が指摘されたため、県が原則として禁止している型式で、技術的基準に反するとした。「大災害の貴重な教訓として確認された設計上の重要な注意事項」で留意がとりわけ必要なのに、建築主事は設計者に問い合わせもしなかったと指摘した。
これら設計上の問題について調査しなかったことが、建築主事としての注意義務違反にあたると結論づけた。
県などの賠償責任の範囲については、補強すれば建て替えの必要はなかったと指摘して、耐震補強工事費用分などにとどまるとした。その額は約2億5千万円で、すでに施工業者から2億円の弁済を受けているため、残りを最終的な賠償額と認定した。
判決について、県は「主張の一部が認められなかったのは誠に残念。今後の対応は内容を十分精査して検討する」とのコメントを出した。(岩波精)
性善説から性悪説に変わったという感じですかね。
県から支払われるなら、
税金が使われるということになりますが・・・
姉歯事件以後、建築確認が相当に厳しくなったようですが、意味のある制度変更になったのでしょうかね。