香川県立中央病院で、不妊治療中の女性Aさんに、体外受精した受精卵を戻す際、 別人のBさんの受精卵と取違えた可能性があるため、妊娠していたものの人工中絶を行っていた、ということがわかりました。 昨年11月の出来事ですが、Aさん夫婦が裁判に踏切ったため、公表したそうです。
取違えた原因として、AさんとBさんの受精卵を同じ時期に扱っており、受精卵を入れたシャーレのふたが入れ替り、 受精卵自体が入れ替ってしまった可能性が高いらしい。
ということは、本来のAさん夫婦の受精卵はBさんのところに行ったことになるんでしょうか? そちらはどうなったのでしょうか?今のところ報道されていませんが。
病院側は人工中絶の際に、取違えに関して最終的な結論を下せるような調査をしなかったとのこと。技術的に? 調べられるような状態ではなかった、ということです。ずっと疑惑のままでは、問題はすっきりせず、 くすぶったままで尾を引く感じですね・・・・・出口が見えてこないような・・・
Aさん夫婦にしてみれば、不妊治療で妊娠できた矢先に、今度は他人の子供「かもしれない」と言われ、結局人工中絶・ ・・となってしまっては、その苦しみは想像に難くありませんし、裁判に訴える気持も理解できます。
病院側にしても、担当医が一人で作業をすることが多く、ミスを防ぐ対策を軽視していたようであり、 医師側の責任が厳しく問われるのは間違いないでしょう。もし、全国統一的なミス対策のマニュアルが存在しないのであれば、 再発防止にマニュアル策定という動きにもなるでしょう。
しかしながら、担当医が取違えの可能性に気づいたという事に関しては、不幸中の幸いではなかったか。
日本では、同様な事故で妊娠に至ったケースはこれ以外には報告されていないそうですが、 取違えたこと自体に誰も気づいていないケースが存在する可能性もあると想像できますし、もしかすると、 取違えを認識していても沈黙しているケースがあるかもしれません。
さらに、Aさん夫婦に自身の重大なミスを告げるのは、相当な勇気が必要だったのではないでしょうか。取違えは 「可能性」であるし、生れた子供全員にDNA鑑定をするわけでもなし、黙っていればずっとわからなかった可能性もあります。
ミスを犯した事とは切離して考えると、良心に従った行動として、一定の評価ができるのでは。
一方、Bさんに対しては
Aさんの人工中絶から2ヶ月ほど経ってから事情が説明されたそうです。Bさんは「残念だった」とコメントし、 Bさんに早く伝えなかったのはAさん側の希望でもあった(中絶の判断に影響が及ぶ可能性がある)、 と病院側は説明しているそうです。
Bさんもこの問題の当事者です。相当複雑な思いだったのではないでしょうか?取違えでなければ、 自分が妊娠していたのかも知れないのだし、現実は、自分が知らない間に自分の子供が殺されてしまっていた「可能性」がある。
かといって、いわゆる「代理母」みたいな状態で、Aさんに産んでくれ、と言うのもどうか・・・様々な意味で「残念」 だったことでしょう。Bさんについても、何らかの解決が図られるべきでは、と思いますがどのようになるのか。
人間の行いによる様々な歪みが現れた事件だと思いますが、人工授精は、 不妊治療としてこれからも続けられるでしょう。であれば、取違といった技術的ミスへの対策を、 マニュアルをつくるなどして事前に徹底しておくしかないでしょう。
ただ、「あってはならない」「二度とおきないように」、言うのは簡単ですが、いくら周到なミス防止策を講じても、 人間がすることなので何かしらの間違いを犯す可能性は残ります。治療をする側も受ける側も、 そんなリスクへの意識を持つことが必要でしょう。
万が一、取違えが起きてしまった場合どうするのかという視点から、 倫理的な見解や行動の指針を持っておく必要もあるのではないでしょうか。果して、Bさんへの説明が事後承諾の形でよかったのか。
asahi.com
受精卵取り違え妊娠、中絶 香川県立中央病院
2009年2月19日21時5分
香川県は19日、県立中央病院(高松市)で昨年9月中旬ごろに体外受精をした不妊治療中の20代女性に対し、 過って別の患者の受精卵を移植した可能性があるため、同11月に人工妊娠中絶をした、と発表した。妊娠9週目だった。 病院は女性に謝罪したが、女性とその夫は「精神的な苦痛を被った」などとして、 慰謝料など約2千万円の支払いを県側に求める訴えを今月10日に高松地裁に起こしている。
日本産科婦人科学会によると、不妊治療の際に受精卵を取り違えて別の女性の子宮に移植し、 その女性が妊娠に至った例は初めて。95年に石川県の産婦人科診療所で受精卵を取り違えた例が報告されているが、 この時は妊娠しなかった。
同病院によると、別の患者の受精卵を移植された可能性がある女性は、高松市に住むAさん。 Aさんは昨年4月から同病院で不妊治療を開始。産婦人科の男性担当医(61)が同9月中旬ごろ、Aさんに対し、 別の女性Bさんの受精卵を間違えて移植した疑いがあるという。
体外受精した受精卵を移植するには培養が必要で、担当医は移植前に、 受精卵を顕微鏡で確認したり培養液を入れ替えたりする作業をしていた。その際、 Aさんの受精卵が入ったシャーレだけでなく、事前に同じ作業をしていたBさんのシャーレも作業台に置いていたという。 移植したシャーレのふたにはAさんであることを示すシールが張ってあったが、 ふたが入れ替わってBさんのシャーレをAさんのものと間違えた可能性が高いという。
担当医は昨年10月にAさんを診察。同7日に超音波検査で妊娠を知り、 同16日にも経過が順調であることを確認した。だが、 過去の治療からAさんの受精卵がこの時期に妊娠可能なほどに成熟する可能性が低かったことを思い起こし、 これまでの作業内容を点検した結果、入れ替えの可能性に気付き、同31日に院長に報告した。
担当医と産婦人科主任部長は院内で経過を検証後、昨年11月7日、 Aさん夫婦に受精卵を誤った可能性が高いことを説明し謝罪。 「妊娠15週目に入ればDNA鑑定などにより確定の可能性が高いが、母体に負担が大きい中絶になる」 と病院側から説明を受けたAさん夫婦は人工妊娠中絶を決断した。病院側はBさん夫婦にも説明、謝罪している。
病院によると、担当医は不妊治療が専門で、93年から体外受精の治療をしていて、 これまでに約1千件の実績があるという。同病院では人工授精の作業をほぼ1人で担っていた。担当医は病院に対し 「注意不足だった。非常に反省している」と話しているという。
Aさん側からの訴状が18日夕に届いたことから、県は19日に発表した。
2009年2月20日12時3分
香川県立中央病院(高松市)で不妊治療中の女性Aさんに、 別の女性患者Bさんの受精卵を移植した可能性があるとして人工妊娠中絶した問題で、病院側がBさんに対し、 中絶から2カ月後の今年1月になって、取り違えなどの事情を初めて説明したことがわかった。 松本祐蔵院長らが20日未明に取材に応じた。松本院長は「事前に説明して結論などが出なければ妊娠が継続され、 Aさんの負担が増すと判断した」としている。
また同病院は中絶後も、取り違えが本当だったのかどうかDNA鑑定などによる最終確認を行っていなかった。 松本院長は「中絶後の状態からは、調査をするのは不可能だった」と説明している。
松本院長らによると、Aさんは昨年11月中旬に人工妊娠中絶したが、病院側はこの時点で、 Bさんに事情を説明したり中絶の是非を相談したりしていなかった。中絶を伝えたのは今年1月になってからで、Bさんは 「残念だった」と言ったという。松本院長らは 「中絶の判断に影響を及ぼすのでAさんの家族がBさんに伝えるのを望まなかった」と説明している。
一方、一連の体外受精の作業をした担当医の川田清弥医師(61)について、同病院の米沢優・ 産婦人科主任部長は「受精卵操作を1人でやる機会は今回だけではなかった。(受精卵などを取り扱う)胚(はい) 培養士が立ち会うより、川田医師1人での作業が多かった。土日は1人。平日もほぼ毎日、受精卵を操作していた」 と明らかにした。
また、Aさん夫婦に対しては、川田医師と産婦人科主任部長、 臨床心理士ら4人が昨年11月7日に病院の外来で受精卵の取り違えの可能性を説明した。 面会の場になって初めて取り違えの可能性を知らされたAさんは「新しい命なのに産めないんだな」と涙を見せたという。 また、翌日に改めて病院で川田医師と部長ら計5人がAさん夫婦、夫婦の母親2人の計4人に説明。母親は 「信頼していたのに裏切られた」「川田医師の顔も見たくない」と強い口調で抗議したという。
YOMIURI ONLINE
待望の妊娠、中絶という苦渋の決断…香川の受精卵取り違え
夫「あり得ないこと」
香川県立中央病院(高松市)で昨秋、別の患者のものの可能性が高い受精卵を移植された20歳代の女性と夫は、 妊娠を喜んだ1か月後、人工中絶という苦渋の決断をした。
「せっかく授かった命。自分たちの子どもなのか、調べる方法はないのか」と、病院に求めた夫婦は、 検査が可能になる頃には、中絶ができなくなると告げられた。女性は手術を受けたその日、ただ涙を流したという。
19日、県庁で記者会見した同病院の松本祐蔵院長らによると、 女性は1年近く県内の民間病院で不妊治療を続けていたが、結果が出ず、 昨年4月から県立中央病院で体外受精などを始めた。「高度な治療が受けられる」と期待し、 同10月7日に担当の男性医師(61)から妊娠の事実を伝えられると、ほほ笑んだ。
だが、状況は1か月で一変する。11月7日夕、担当医師と産婦人科主任部長が、 別の患者の受精卵を戻した可能性が高いことを来院した夫婦に伝えた。女性はぼう然として言葉が出ない。夫は 「あり得ないことだ」と言ったという。
この時点ではまだ、誰の受精卵か確かめられないと聞いた夫は翌日、産婦人科主任部長らに 「何とか調べる方法はないのか」と尋ねた。返ってきたのは、「6週間後に羊水を検査すれば分かるが、 その時点では中絶は不可能です」との答え。その場で女性は涙を流した。夫婦は中絶を決め、3日後に手術が行われた。 女性は、検査で一度病院を訪れ、松本院長から謝罪を受けた後は来院していないという。
女性の夫は読売新聞の取材に対し、「残念なのは当たり前です。妻の状態も含めて、 今の時点で私たちがすべてを明かすことはできません」と話した。
松本院長は記者会見で、「妊娠したという喜びの際、 中絶という身体的にも精神的にも想像を絶するような負担をかけ、申し訳ない」と陳謝。 今月10日に女性側が高松地裁に提訴し、訴状が18日夕に県に届いたことから、裁判で事実が公になると判断して、 公表したと説明した。
同病院で人工授精を試みている30歳代の女性は 「中絶しなければならなかった女性の悲しみを想像すると耐えられない。 ミスが二度と起きないよう再発防止策をきちんとしてほしい」と訴えた。
受精卵の確認厳格化検討へ
香川県の病院で受精卵の取り違えが起きたことを受け、日本産科婦人科学会は19日、 個々の患者や受精卵の確認作業を厳重に行うよう求めた会告(指針)について、 厳格化を含む見直しを28日の定例理事会で検討する方針を固めた。 今回と同様の取り違え事故が1995年に石川県内で起きていたことが発覚した2000年に、 会告を全会員に通知していた。
今回の取り違えを受け、同学会の吉村泰典理事長は、「早急に事実確認をし、対処する」とのコメントを発表し、 迅速に再発防止に取り組む姿勢を示した。
(2009年2月20日 読売新聞)
香川県立中央病院(高松市)で昨年9月、不妊治療で体外受精した20歳代の女性が、 別の患者の受精卵を移植された疑いがあるとして人工中絶した問題で、担当した川田清弥医師(61)が20日、 読売新聞の取材に応じ、「日頃から1人で作業することが多かったため、(自分の経験を)過信してしまった」 「安全面を軽視してしまった」などと述べ、複数での確認を怠るなどチェック体制の不備を認めた。
川田医師はこの日、「確実に本人のものとは言えない受精卵で妊娠させてしまい、大変申し訳ない。 償いようのないミスだ。私1人が(受精卵の取り扱いを)していたことが、最大の過ちだった」と述べた。
川田医師は1993年から1人で体外受精の不妊治療を始めた。2002年に技師が加わり、現在、 受精卵の取り扱いは川田医師と技師4人の5人体制で行っているが、技師は別の検査を掛け持ちすることも多いという。 川田医師は「技師が休みの土日曜は、1人で受精卵の培養作業をしており、次第に平日も単独ですることが多くなった」 とし、受精卵の培養や管理など多くの作業でチェック体制が整っていなかったことを明かした。
受精卵を取り違えたとされる昨年9月18日は平日。技師もいたが、川田医師が1人で作業していたといい、 「技師らを使いこなせなかったことも含め、私の個人的な能力が欠如していた。責任を取らなければいけないと感じており、 院長と話し合いたい」と述べた。
病院側は、日常的に単独で作業していたことを認識していた。松本祐蔵院長は「事故がなかったので、 大丈夫という認識の甘さがあった」と話している。
川田医師は「ミスが重なった結果だが、具体的な理由は思い出せない。 胚(はい)を発育させるという結果を追いかけ過ぎ、安全面を軽視してしまった。私1人でしていたことが、 最大の過ちだった」と話した。
一方、同病院には体外受精を始めた当初から、受精卵の取り違えを防ぐ院内マニュアルはない。 2000年に石川県内の医療機関で取り違えミスが発覚し、日本産科婦人科学会から受精卵を取り扱う際の識別・ 確認の徹底を求める通知が出ても、作成していなかった。
生殖医学などを研究する国際医療技術研究所(宇都宮市)の荒木重雄理事長は 「各医療機関は識別方法などの細かなマニュアルを作り、国は外部監査体制を整えるべき」と話している。
(2009年2月20日14時37分 読売新聞)
最近、拙僧の周囲でも不妊治療で悩むカップルが増えておりまして、ちょっと他人事とは思えなかったニュースです。医者の方は、ちょっとしたミスだと思っていたかもしれませんが、実際にこの間違いをされた夫婦の側は、たまったものではないですね。病院側は和解を模索するようですが、是非、夫婦側に重大な配慮をした上での和解を期待したいところです。
>是非、夫婦側に重大な配慮をした上での和解を期待したいところです。
病院として責任があるのは間違いないですね。
具体的にどのように配慮をしていくのかは、判断に苦しむところがあるのではないでしょうか。
一病院の重大事故で済ませるのではなくて、人工授精という手法について改めて考える機会ではないでしょうか。