広島県福山市に「鞆の浦」というところがあります。私自身は行ったことがありませんが、 江戸時代からの港や街並が残っているそうで、元記事の写真を見ると、 なかなか味のある風景だと思います(撮影者の技量によるところもあるでしょうが)。
この鞆の浦で、広島県や福山市が、周辺の交通渋滞の解消という名目で、進める埋立て・ 架橋計画があるそうなのですが、国土交通省がその事業の認可を渋っているらしいです。 鞆の浦の景観を守り世界遺産登録を目指そう、という動きもあるそうで、計画に反対する10万人の署名も集っているとのこと。 世界遺産を評価する機関「イコモス」も、計画の中止を求める勧告を出しているそうです。
宮崎駿監督が「崖の上のポニョ」の構想を鞆の浦で練ったこともあるとかで、元記事では「ポニョの里」 という風にも書かれていますが・・・・これは歴史的景観の保全、という点からは間違った表現だろうと思います。
景観問題を一般に訴求したいがためなのかもしれませんが、 問題の内容に関して誤解を与える可能性も大いにあるのでは。
それはさておき、この問題は景観保全だけでなく、街の活性化に関する問題の方が大きそうに感じます。 地元の意志として、架橋に賛成派と反対派、どれぐらいの割合になっているんでしょうね。
架橋賛成派は、たぶん、公共事業による仕事・雇用の発生や、 埋立て地への施設誘致と言ったことを考えているのではないでしょうか。従来からそこかしこにあった話で、 わかりやすいと言えばわかりやすい。ただし、本当に交通渋滞だけなら、トンネルを掘るという手法も考えられます、 ただし非常に高価でしょうが・・・・
反対派は、いまの鞆の浦が世界に誇れる財産と言うことで、世界遺産登録や保全を訴えているのでしょう。歴史的街並・ 風景を壊すのは簡単ですが、再びつくり出すのは容易ではありませんので、趣旨としては賛同できます。
ただ、では過疎化が進む街の将来はどうするんだ、という点において、 反対派は説得力ある方策を出せないんじゃないでしょうかね。観光で何とかしよう、ということは言えるでしょうが、 具体的展開方法や、いかに観光業を継続していくか、となるとなかなか難しいのでは。
国交省が事業認可を出さない、というのは一種の圧力ですね。ついでに、 景観を守りながら街を活性化する方法を指南してあげられれば良いのでしょうけど、そこまで踏込めるでしょうか?
asahi.com
ポニョの舞台どうなる 埋め立て計画に10万人署名の盾
2009年2月12日8時4分
江戸時代の港や町並みが残り、映画「崖(がけ)の上のポニョ」の舞台ともされる広島県福山市の「鞆(とも) の浦」で県や市が進める埋め立て・架橋計画の認可を国が渋っている。世界遺産登録を目指す10万人署名を前に、 金子一義・国土交通相は「国民の同意を」と事実上の見直しを求めているが、地元自治体はそれに応じる気配はない。 反対派住民が埋め立て中止を求めた訴訟も12日に結審し、司法判断もいよいよ秒読み段階だ。ポニョの里の将来やいかに― ―。
「住民同意ではない。国民の同意を取りつけてくれ、ということ。その過程で当然、(計画の) 見直しもあるんだろう」。1月30日、閣議後の記者会見で金子国交相がそう発言すると、広島に波紋が広がった。
県と福山市は周辺の交通渋滞解消を理由に07年5月、 鞆の浦の一部を埋め立てるための免許を藤田雄山知事に求め、知事は昨年6月に免許の認可を国に申請した。だが、 通常は2カ月程度で済む認可手続きが半年以上も棚上げされ、しびれを切らした羽田皓(あきら) 市長が1月28日に金子国交相に面会し、速やかな認可を求めたばかりだった。
発言から3日後。定例会見で羽田市長は「何をもって国民同意となるのか定義がよく分からない。 これは地元の問題だ」と憤った。
金子国交相は翌日、再び「思いが理解されなかったのは残念。それではなかなか物事が前に進まなくなる。 (地元の)住民以外が何を考えているかを市長も頭の中に入れてほしい」と応じた。
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アニメ映画「崖の上のポニョ」の宮崎駿監督は作品の構想を鞆の浦で練ったとされ、 地元の町並みを連想させる場面が登場する。1月13日の衆院国土交通委員会で、 ポニョを引き合いに計画への姿勢を問われた金子国交相は、作曲家宮城道雄が鞆の浦で着想した曲「春の海」を挙げ、 「これだけの伝統と歴史を持つ町並みを容易に損ねていいのか」と強調した。
鞆の浦をめぐっては、 昨年10月には鞆の浦の世界遺産登録を目指す国内外の約10万人分の署名を反対派の住民が国交省へ持参した。
世界遺産の調査・評価を担当するユネスコの諮問機関「国際記念物遺跡会議(イコモス)」も同じ時期、埋め立て・ 架橋計画の中止を求める勧告を05年に続いて決議。11月にはイコモス本部(パリ)のグスタボ・ アローズ委員長が代替案の検討を求める要望書を国交相や藤田知事らに送った。金子国交相はこうした「世界の目」 を意識せざるをえない状況だ。
住民も一連の大臣発言に気が気ではない。計画推進派の住民団体「明日の鞆を考える会」の北村武久会長は 「町の人口は四半世紀で半減し、空き家が増えた。 町並みを守るためにも架橋で過疎化を食い止めなければならない現状を大臣は理解しているのか」とカンカン。
一方、反対派の住民団体「鞆の世界遺産実現と活力あるまちづくりをめざす住民の会」の松居秀子代表は 「日本が世界に誇れる財産だから大臣発言は当然」と歓迎する。
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県と福山市は、国からさらなる宿題も突きつけられている。その一つが「埋め立て・架橋で失う利益よりも、 得る利益が著しく大きいという客観的説明が必要」という異例の注文だ。
県の大野宏之・土木局長は「現在の計画がベスト。一人でも多くの理解を得られるよう市と協力して努力していく」 と語るが、いまだに国の難題には答えられていない。
国交省内部には「国交相の真意は、地元が架橋の必要性をもっと広く世間に訴える必要があるということ」と、 深読みする声もある。
羽田市長は今月4日に県庁を訪問して藤田知事と会談し、今後の対応や、 世論への情報発信の方法について意見を交わしたが、国交相の翻意につながる妙案は浮かんでいない。(吉田博行、 辻外記子)